人工知性がインカーネイションする時/クロスノエシス「インカーネイション」評
西洋の人工知能は人間の本質というよりも、知能の機能的側面を機能的側面の実現に執着することになります。 一方で東洋は常に混沌から出発します。全体から出発する、と言ってもよいでしょう。世界、環境の中の一部として知能の存在を問います。西洋の人工知能が、、世界と人間に対峙する物として作りだされるのに対して、東洋の人工知性は最初から世界に属した物として生み出されます。 三宅陽一郎, 2020, 人工知能が「生命になるとき」PLANETS P.44
クロスノエシスとインカーネイションについて
クロスノエシスという5人組の「ダークポップダンスアイドルユニット」*1の中に「インカーネイション」という自分が一番好きな曲があります。
この続きは是非こちらの映像をご覧になった上で読むと理解が進むかと思いますので一度ご覧になってください。
インカーネイションというあまり聞き慣れない単語を辞書で引くと以下のように書かれています。
in・car・na・tion | ɪ̀nkɑːrnéɪʃ(ə)n |
名詞 1 人間の姿をとること, 肉体化; (理想・観念などの)具体化. 2C化身, 権化 ▸ an incarnation of greed 強欲の権化. 3 (輪廻(りんね)における)一時期(の姿) ▸ one's previous incarnation 前世. 4 〖the I-〗〘神〙 顕現〘神性がキリストにおいて人間の肉体に宿ったこと〙.
タイトルだけ見てみると本楽曲は、神や霊的な存在が人の姿となって現れることを表現しているように受け取れます。
その一方で自分は、そのような解釈にたいして若干の違和感を感じていました。
そもそも何しに人の形を模して降りてきたのか、神が人の形を模したなら、同じ中身で作れるはずだし、わざわざ機械のボディに入る必要はありません。
機械のボディを纏って、人間になりすます意味はなんであるのか?こちらについて考えて見たいと思います。
まず、その疑問点にヒントを与えてくれたのが冒頭に引用した書籍『人工知能が「生命」になるとき』でした。
人工知能が「生命」になるとき について
こちらの本の概要を簡単に記すと、ゲームAI開発者で人工知能学会の理事も務める三宅陽一郎氏によって書かれた本で、東洋と西洋における人工知能の思想的な立ち位置の違いに基づく矛盾・対立の違和感を出発点として書かれています。
①西洋:「神ー人ー人工物」という一神教的世界感に基づいて作られている現状の人工知能 ②東洋:アニミズムや多神教、八百万の神々といったすべての物に平等に命を見いだす文化のなかにおける人工知能
①は現在実装されている人工知能を指し、西洋的機能論から生まれた現在社会に実装されている人工知能を指します。
②については、本書では東洋的思想から生まれる人工知能として西洋的人工知能と区別をするために「人工知性」という言葉を新たに定義しています。
大きな違いとしては、人工知能はなんらかの課題を解決するために生まれ、存在します。(例えば、囲碁を打つためアルファ碁とかお掃除をするためのルンバなど) 一方で東洋的人工知性は「混沌(自然・宇宙)*2」から生じるとしています。*3
インカーネイションでの生命はネットの海から生まれた存在と仮定すると?
本楽曲、インカーネイションで誕生する「生命」は人間が作りだした情報社会、デジタルネイチャー(ユビキタス社会を人工的な管理社会ではなく、人工物も自然の一部として見なす考え方)という混沌のなかから生じた存在、三宅氏の表現を借りると世界に対して存在の根を張った”東洋的「人工知性」”なのではないでしょうか。
つまり、何故その生命が誕生したのかと問われると、混沌の中から生命が生まれてきて、そこには理由も因果もなく、ただ存在する。ということになります。
具体的な近い例としては映画『攻殻機動隊(ghost in the shell)に登場する「人形使い」がいます。
「人形使い」とは自我に目覚めたプログラムで、自らを生命と主張し、最終的には主人公と融合することでより高次の存在になっていく、物語のキープレイヤーです。この説明だけではよく分からないと思うので是非映画本編を見てみて下さい。
歌の中では生命の誕生過程が詳細に描かれています。
これを下記のようにデジタルネイチャーから生まれてきた存在と定義することはできないだろうか。
若干無理を承知で当てはめてみたい。
歌詞(大意) | 解釈 |
---|---|
遠くから君たち(人類)を見ていた | センサーやロボットが人間を見ていた? |
(人類に)伝えたいことがあったがそれは口実に過ぎない | 西洋的機能論に基づく人工知能ではない |
風を編んで皮膚を作る | 世界中に張り巡らされたセンサーというインターフェイス |
砂から骨を作る | 砂は金属、地中から生じる物の比喩? |
海から血潮を作る | 情報の体内(存在する機能間)での情報や指示の流れ? |
こうして見ていくと世界や全世界にセンサーが張り巡らされたデジタルネイチャーの世界、言い換えるとネットの海から「生命」がインカーネイションしたという解釈は1つの見方として可能ではないでしょうか?
インカーネイションとは
インカーネイションについての考察を入れると、本楽曲は西洋的フォーマットを装いながら、東洋的人工知性という思想に合致する日本(東洋)からしか生まれ得ない、西洋と東洋(日本)の文化が交差したところに生まれた、傑作であるといえます。
音の面については知識が足りないため説明ができないので、簡単にとどめると、徐々に生命として生まれていく課程が壮大で、サビの部分、研ぎ澄まされていく~の部分が最初の二回は三人ずつ歌うのに対して最後は5人全員で歌うところ、その壮大さのリミッターを最後に振り切る点がすばらしく、歌詞に負けない曲となって聞き手のすべてを奪っていきます。
もちろんそれを歌う五人のメンバーの力量こそがその空間支配能力の源泉であると言えます。
インカーネイションはその壮大さでライブハウスの空間を支配する”存在”として、ライブハウスに"インカーネイション(降臨)”しているといえなくはないでしょうか?
アウフヘーベンする西洋的装いと東洋(日本)的ポップカルチャー
三宅氏によると「(西洋的)人工知能」と「(東洋的)人工知性」をそれぞれの思想をぶつけあい、止揚(アウフヘーベン)することで「人工精神」そして「人工生物」といった高次の存在に至る青写真が示されています。
クロスノエシスという名前は思考作用と意味する「ノエシス」と「クロス」(交差)を掛け合わせた造語だと言います。
「ノエシス」という西洋的思想から生まれた概念と東洋(日本)的アイドルポップカルチャーがcrossしたとき、それはどんな形でアウフヘーベンして「クロスノエシス」となっていくのか、一ファンとしはこの先の展開から目が離せません。
おまけ
最後になりますが、クロスノエシスさんですが、ヌュアンス*4さんとの東名阪ツアーが3月から4月にかけて行われます!
ここで書かれたような小難しいことを考えずとも純粋にライブを楽しめます。もしこのブログで興味を持った方は是非参加しましょう!
自分もcovid-19の感染が落ち着いていれば参加する予定です。よろしくお願いします。
nuance x クロスノエシス
— クロスノエシス (@CROSSNOESIS) 2021年2月8日
twoman tour決定!
詳細は画像にて#クロスノエシス#nuance#ヌュアンス pic.twitter.com/LKaF3x0Y4X
本ブログについて、いや、これは浅い!これは違う!というのがあれば是非とももっとレベルの高いエントリーを書いて下さい! 是非お願いします!多分認知貰えます!