クマリデパート中野サンプラザ公演感想、武道館に向けての中間点として

今さらですが11/27に中野サンプラザで行われたクマリデパートの中野サンプラザ公演の感想です。

 


まず最初に今回のライブの特徴を述べるなら、大きいステージに負けないステージパフォーマンスの披露とそして物語性の導入にあったように思う。

ステージパフォーマンスの披露について

今回は自分たちのステージパフォーマンスを見せることに重点を置かれており、前回の豊洲pitで使われていた怪獣の着ぐるみの登場や炭酸ガス銃の使用などといったギミックが使われず、中野サンプラザの広さ、そしてこの先に開催が決定している武道館にステージパフォーマンスがどこまで追いついているのかを見せる場として位置づけたように見えた。
実際にメンバー全員のソロ曲の披露など、1人で大舞台に立つという経験をさせているように感じた。
そして、個人的にはこのもくろみは成功したと思う。

お立ち台の使用や縦横無尽にステージ上を駆け回る姿は決して中野サンプラザのサイズには負けていなかったと思う。


実際にクマリデパートのステージパフォーマンスは上がってきていて、2022年9月にO-WESTの狭いとは言えない会場で見たときには、もうこの会場は狭いかもしれないと感じることすらあった。

また、多少話はずれるが、クマリデパート自身活動6年以上の活動期間を経て持ち曲が増えてきたことで、終盤になってもアンセムとも言えるシャダーイクンと限界無限大ケン%を切っていないないことに内心驚いていた。

 

物語性の導入について

クマリデパートの魅力とは

物語性の導入は今回のライブの一番のファクターだが、まずはクマリデパートの魅力について僕の考えを説明しておきたい。

クマリデパートというグループは結成6年半、来年の3月30日に武道館ライブを控えるアイドルグループだ。
事務所のekomsは小さな会社ながらも(僕から見た感じでは)人の心があるアイドル事務所に見える。
ここ数年多くのアイドルが運営のゴタゴタや事務所の介入、そして不安定な10代の女の子たちということに起因して崩壊していくアイドルグループというものを多く観測してきたし、実際にそれを多様性とシリコンバレー的な多産多死の土壌と見るという見解もある。*1

しかし、その陰でアイドルもオタクも多くの傷を残しているというのもまた事実だと思う。

そんな中でクマリデパートは心のデパートとして常にファンを幸せにすることを掲げてここまで活動してきている。
活動初期には多少メンバーの離脱があったものの、二期生加入して少し立ってからの4人体制からかなり安定し、今では一期生、二期生、三期生がそれぞれ2人ずつの6人という人数もメンバーの個性も(これについてはここでは割愛するが)とてもいい構成となっているように思える。

クマリデパートのなにが良いかというとオタクを傷つけることがなかったというのが、少し遠くから見ていた僕の所感である。

インタービューで一部開かれたクマリの裏側

そんな折りに、今回のライブでは開催直前にインタビューが公開され、そこでは普段見せている笑顔一杯で仲睦まじいメンバーという表の面だけでなく、メンバーがそれぞれ苦悩し、辞めることも考えたり、お互いを思いやりつつも上手くコミュニケーションが取れずに察しあいながら今日までやってきたという繊細な一面が公開された。

 
 
 

今回のインタービューはもちろん事実だと思うが、このタイミングでこのインタビューが公開されたことには意図があったと思う。
そしてそれは、アイドルの武器の一つである"物語"の力を活用しようというものであると思う。
厳しいスタッフへの恐れ、パフォーマンス不足やメンバー感コミュニケーションへの悩み、そして去年のスタッフ体制変更*2などを乗り越えつつ、さらに今回のツアー初日がうまく行かずに悩み苦しむもツアーファイナルの中野サンプラザを成功させ、武道館という大舞台に挑みこれを成功させる。というストーリーは誰にも浮かぶものだろう。

今回のインタビューでそういうストーリーが引かれてしまったようにも感じたし、そのことに危うさも感じた。もちろん、物語の力は多くのアイドルたちが当たり前のように駆使しているし、それこそがアイドルの魅力だとも言えると思う。

設定されない物語にこそ物語がある

しかし、自分としてはそういう物語を引くことなくに地道に目の前のお客様を幸せにし続けたことで武道館に至る…という物語の方が意図的に設定された物語よりも強度があると思っているので実際この記事が上がった時には多少困惑した。

なによりも危ういと思ったのは物語を設定したものは物語に縛られる。自分たちの設定した成功譚を実現させるために焦りや上手く行かなかった時の絶望は想像に絶するつらさだと思う。

武道館の動員が予定通りいかなかった時、一体どういう気持ちになるだろうか?そしてそれに対して自分たちで事前にサクセスストーリーを引いてしまっていたら??

 

本当の物語は武道館に立つところにはないと思う

 

地下アイドルと呼ばれる世界から7年かけて武道館に立つ。これは大きな物語だと思う。そしてその達成のためには自分たちの苦悩や繊細さといったクマリデパートの物語を一部開陳することで、興味を持ったファンを引きつけようというのは、きっと大きな覚悟が必要だったように思う。

地下アイドルから武道館へ、これはきっとアイドル界の希望でもあり、オタクたちの夢でもあり、そして、アイドルになりたい子たちへのクマリデパートなりのアンサーでもあったとおもうし、おそらく歴史はクマリデパートにそういう役割を求めてしまったが故のことであると思う。

 
 

ファンを幸せにするためにはアイドルも幸せであって欲しい

 

しかし、僕が冒頭に述べたようにクマリデパートの魅力はファンを傷つけないことそしてそれを達成し続けていることにある。(それは口で言うのはとても簡単なことだが多くのアイドルがなしえなかったことでもある..)

 

インタビューでは一部メンバーから、武道館の想像がつかないし、武道館以降の活動が分からないという話でていたが、目の前のお客を幸せにし続けたら武道館に立っちゃいました。ぐらいのノリで武道館以降も活動を継続して欲しいと僕は思う。(もちろんこれは当事者ではない僕がそんな気軽に言えることではないとおもう。)

 

もちろん、動員は多い方がいいし、ライブパフォーマンスも高い方がいい。

しかし、何よりもファンを傷つけないで欲しいし、そしてメンバーが病むとオタクも病むということも(もちろん分かっていると思うが)意識して欲しいなと思う。

僕としてはこの先も明るく楽しいクマリデパートを少し離れたところから見ていきたいと思っているので、お客様を幸せにするという心のデパートというコンセプトを維持したまま、武道館は通過点としてその後も活動を続けて欲しいと思う。

 

もちろん僕は武道館参加予定です。よろしくお願いします。

 

www.qumalidepart.com

*1:例えば濱野智史 地下アイドル潜入記 デフレ社会のなれのはてな

*2:これについては記事の中で具体的に言及されず、意図的にぼかされているのでここの文脈を共有しているかどうかはあの記事を読む上で重要なメタ情報だと思う