【書評】フィロソフィーのダンス 1st オフィシャルブック『u got the look』

「俺たちははぐれ者 互いのため音を奏でる。皆 部屋の隅でヒザを抱え居場所がない。音楽が居場所 俺たちは家族だ 個性はバラバラ。」 - 映画ボヘミアン・ラプソディで音楽プロデューサーから他のバンドとの違いを問われたフレディ・マーキュリーの台詞

アイドルは物語と言われている。そこには成長や努力、48グループににおける総選挙での栄光や挫折そして、華々しい卒業や解散までが物語であると言える。
その一方で筆者は物語消費は疲れるものだとも感じていた。ライブのソールドアウトやフィロワー数目標やグループ内競争やステージ獲得をかけた他のアイドルとの競い合いなど、成功のシナリオを自分達で書いてファンと共に同じ物語を歩むことは(失敗の悔しさも含めて)ファンとアイドルの共同の物語としての力が強く作用しファンからしても推している実感を強く感じる効果があると言えるだろう。


一方で、そうした展開は離別や卒業までも”過剰に”美化してしまう風潮にも往々にして繋がり、そうしたことに対する危うさもまた感じていた。*1

フィロソフィーのダンスの魅力は上記のような物語の力ではなく、むしろ純粋にフロア体験や楽曲の力をメインにしつつも特典会といった既存のアイドルの世界も取り入れつつファンを魅了させ続けたところにあると筆者は感じていた。*2


本書のインタビューでは彼女たちの全く別々な生い立ちが語られ、そして各々の居場所や生存を求めて”偶然”アイドルに辿り着いたというドキュメンタリーのような”物語”が本書では描かれている。これを読むことで改めて特典会での対応の良さ、卓越した歌とダンスといったアイドルとしての活力への意思の原動力を知ることができるだろう。覚悟の違いやそれぞれが持つ特技に溺れることなく苦手なことも克服していったことも語られている。*3
本書の価値は彼女たちのバックグラウンドを知ることで、物語を売りにしなかった彼女たちこそがもっとも物語的だという逆説を証明しているところにもあると言えるだろう。


中森明夫氏はアイドルの仕事とは誰かに好きになってもらうことだと述べている。
本書は彼女たちのルーツを辿ることで、メンバーに対しての好きを増やしたい人に大変お勧めの本となっている。((また筆者はあまりに無知なので改めて触れることはしないが音楽的な部分の批評などもあり、そちらを重視する層にも引っかかる一冊と言えるだろう。(各メンバーの個性を活かしたグラビアパートの魅力については言うまでもない。)))

彼女たちがどのように学生時代を過ごし、"セケン"に迎合しない生き方を貫くきながらアイドルにたどり着くまでの物語と言える。そうした彼女たちの生き方を知ることで尊敬や憧れを抱くことが出来るだろう。


さて、冒頭に戻るとボヘミアンラプソディがフレディーマーキュリーというエイズで亡くなったからすごいのではなく大前提としてQUEEENの音楽が魅力的だからこそ物語として成立している。
アイドル文化という権威なき世界をハックしてそこから新たな”快楽”を生み出した成功事例として将来フィロソフィーのダンスが多くの人に語られたとき、自分もまた歴史に立ち会った生き証人として将来物語≈歴史の一部になれる日を楽しみにしようと思った。

アイドルになりたい! (ちくまプリマー新書)

アイドルになりたい! (ちくまプリマー新書)

*1:例えばよくない終わり方をしたアイドルも解散公演を綺麗にやり過ごせばそれで色々あったけど楽しかったよねで済まして良いものだろうか

*2:フィロソフィーのダンスに限らず、例えば筆者が好きなMaison book girlなどもMCなどに頼らず、徹頭徹尾ライブパフォーマンスで客に見ずには入れられない、という空気を作り出そうとしてるところがまた同様に魅力的だと感じている

*3:例えば奥津さんはダンスが苦手で家で数時間ツーステの練習をしたとか日向さんは自撮りや特典会での振る舞いなどを周囲から吸収していたことなど